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2013/10/04
画像にでないめまい
ゆうえん医院 結縁先生
2013/07/11
膝外傷における画像診断
川崎医科大学・スポーツ外傷整形外科学 阿部信寛先生
2013/05/09
腎癌の凍結療法について〜IVRセンター開設のご案内とともに〜
岡山大学病院放射線科 郷原英夫先生

MRIの安全性の考え方〜MRIオーダーするその前に〜

【 岡山画像診断センター画像技術部 穴見大吾 】
2001年7月。米国の病院でMRI装置への酸素ボンベ吸着事故が発生。術前検査のために鎮静下にあった当時6歳の男児の頭部に酸素ボンベが直撃し、残念ながら2日後にその男児は死亡した。MRI装置のもつ危険性を再認識させられた事故である。MRI検査を行う上で、安全性に影響を与える要素は4つ。静磁場による力学的作用、傾斜磁場による神経刺激および騒音、そして高周波(RF)による発熱である。静磁場による力学的作用は、前述の事故のような外的因子のみではなく、体内に埋め込まれたステントやクリップといった金属についても同様に作用する。実際に、ペースメーカーや脳動脈クリップが埋め込まれていたことによる死亡例も過去に報告されている。また、高周波による発熱についても、直接的な人体への影響のみならず、体内に埋め込まれている金属が原因での発熱も起こりうる。さらには、装置の高磁場化に伴い、これら4つの生体への影響はますます大きくなる。特に、高周波の与えるエネルギーについてはSAR(比吸収率)といった値で管理されているが、1.5Tから3.0Tに静磁場強度が2倍になれば、そのエネルギーは4倍になる。
生体への影響だけでなく、MRI装置自身がもつ危険性もある。クエンチと呼ばれる現象で、冷却のために使われている液体ヘリウムが気化するのである。その膨張率は700倍にも達する。クエンチが起きた場合、通常は排気ダクトを通じて外部へ放出されるが、排気が上手くいかず検査室内に漏れた場合には、ヘリウム自体には毒性はないものの、空気中の酸素濃度の低下により窒息の危険性が出てくる。故に、MRI検査室では常に酸素モニタで空気中酸素濃度を測定している。
今回の勉強会では、まずはMRI検査の裏にひそむ危険性について解説をさせていただいた。その上で、検査を実施する際に、実際にどういった金属に対して注意が必要なのか、どういった患者様に対して注意が必要なのかを踏まえながら、当センターにおける安全性への取り組みについて紹介させていただいた。今回の勉強会を機に、MRI検査の併せ持つ危険性について再考していただければ幸いである。

臨床画像から考えるMR信号理論〜なぜ造影剤なしで血管が写るのか〜

【 岡山画像診断センター画像技術部 松下利 】
CTの画像コントラストはX線が透過しやすいかどうかで決定される。X線が透過しやすい組織は黒く、透過しにくい組織は白く描出される。一方、MRIの画像コントラストは、頭部単純検査を例に挙げても、実に様々な画像コントラストを呈する。その理由は、MRIでは人体内のプロトン(水素原子核)の挙動を画像化していることに起因する。画像化の過程でプロトンは励起と緩和を繰り返すが、緩和の過程は2種類存在し、組織ごとに緩和の仕方もそれぞれ異なる。その緩和の違いが信号の強弱として捉えられることで画像コントラストとして反映される。そして、プロトンが示す2種類の緩和を各々画像に反映させたものが、T1強調画像およびT2強調画像と呼ばれる画像となる。また、MRIではプロトンをターゲットにしているために、組織に含まれるプロトンの絶対数がなによりもまず画像に反映される。そのため、靭帯や神経といった繊維組織や石灰化病変は常に低信号もしくは無信号となる。例として挙げるならば、石灰化した胆石はCTではX線を通しにくいために白く描出されるが、MRIではプロトンの数が少ないために無信号となる。しかしながら、プロトンの挙動を画像に反映するがために、血液中のプロトンから信号を収集することで造影剤を使わなくとも血管を描出することが可能となるのである。MRAで励起の方法を通常の撮影方法とは変えることで、静止した周辺組織と動く血流との間に信号強度差を作りだしているのである。
今回の勉強会ではまず、画像の成り立ちについて理解していただくために、画像化の過程における励起と緩和、基本画像であるT1強調画像とT2強調画像について簡単に述べさせていただいた。また、実際に我々が先生方に提供させていただいているMRCPやMRA、拡散強調画像などの画像についての解説、さらにはGd造影剤が高信号になる理由、投与量が多すぎると信号が低下する現象についても解説をさせていただいた。今回の勉強会を機に、MRIの画像について、多少なりとも興味を抱いていただければ幸いである。

膵の嚢胞性腫瘤の診断と管理〜そのIPMNはfollowで良いですか?

【 岡山済生会総合病院画像診断センター長 戸上泉先生 】
2009年の我が国の膵癌の死亡者数は男性は14094人で第5位、女性は12697人で第4位です。膵癌の早期発見は困難といわれていますが、近年、リスクファクターが次第に明らかになり、そのなかでもIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)はそれ自体悪性のポテンシャルがありますが、通常型膵管癌の合併頻度も高く、膵癌の前癌病変として注目されています。本講演では膵癌診療ガイドライン(2009年版)、IPMN/MCN国際診療ガイドラインに沿って、IPMNの診断と管理、膵嚢胞性病変の種類と鑑別点 について当院での症例を中心に述べる予定です。
また、当院で昨年より開始している地域連携支援システムによる診療情報の共有化プロジェクト:なでしこネットについてもご紹介する予定です。

左図:主膵管型IPMNのMRCP    右図:IPMNに合併した膵癌

胸部単純写真読影のコツ

【 岡山大学病院放射線科 加藤勝也先生 】
胸部画像診断において、CTの多列化、デュアルエナジーCTの出現、MRIの高磁場化、PET-CTの普及など、診断装置の進化は著しいものがある。その中で胸部単純写真の果たす役割が軽減してきたかというと必ずしもそうとはいえない。低被爆、短時間、安価、撮像装置の普及率、ベットサイドでも撮像可能など、胸部単純写真の利点は今なお損なわれておらず、またその病変描出能も特にスクリーニングや経過観察目的であれば十分なものがある。ただ病変を描出可能であるということと、指摘可能であるということは別の問題で、胸部単純写真が分かりづらい、とっつきにくいという若手医師が多い原因の一つとなっていると考える。
今回の勉強会では、エネルギーサブトラクション法や経時的サブトラクション法など、撮像装置側の病変指摘能向上への試みを紹介するとともに、読影側の肺腫瘤性病変に対する病変指摘能を向上させるためのいくつかの“コツ”を示した。また、その“コツ”を実践する読影の仕方として“小三J”読影法を紹介し、これらについて実際の症例をもとに解説した。

認知症診療における画像診断の役割〜最新の知見も含めて〜

【 岡山画像診断センター 井田健太郎先生 】
現在、65歳以上の高齢者のほぼ12人に1人、約240万人が認知症であると推定されており、今後も右肩上がりに増加するのは確実な状況である。このような背景もあり認知症は‘がん’と同様にその予防や早期診断、治療や介護、社会環境の整備など、社会全体で取り組むべき大きな問題として認識されつつある。
認知症をもたらす疾患は多岐にわたる。それらのうち慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症といった治療可能な疾患を確実に診断し、早期に治療を開始するという観点から画像診断は認知症の診断プロセスに必須である。また特にMRI所見が認知症を惹起する稀な疾患を疑う契機になることも少なくない。
近年の飛躍的な研究成果から、アルツハイマー病の分子レベルおける発症機構は次第に明らかになり、治療に関してもコリンエステラーゼ阻害薬の登場により大きく進展した。この治療薬の効果を最大限に発揮するためには、より早期に治療を開始する必要があり、また将来的には根本的治療薬も登場すると期待されており早期診断の重要性がますます強調されている。以下の画像診断技術、すなわちβアミロイドを画像化するアミロイドPET、糖代謝を画像化するFDG-PET、脳血流を画像化するSPECTや軽微な脳萎縮を検出する高精度MRIを用いた脳容積測定法などが、この早期診断や病態の推移を評価する上で、重要かつ客観的なサロゲートマーカーとして大きな役割を担うと考えられている。
本講演ではアミロイドカスケード仮説に即して、これらの画像診断技術ついて概説し、その役割と今後の展開について述べる。